大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)526号 判決

控訴人は、賃貸人に無断で賃借家屋の一部を他に使用させたときは、その事由がどうであろうとて民法第六一二条第二項で賃貸借契約を解除し得ると主張する。賃借人が賃借家屋を他に使用させたような場合には、多く賃貸人に対する信頼関係を破壊する背信行為となるから賃貸人に契約を解除する権利を法律が認めているのであるが、賃借人において賃借家屋を他に使用させても賃貸人に対してその信頼関係を破壞する背信行為と認められないような場合には、賃貸人は第六一二条第二項による契約の解除権を有しないと解するを相当とする。しかして本件の場合には、上段認定の当事者間に争のない事実及び上記認定の事実よりすれば、控訴人はその生計の資を供せられている恩人ともいうべき西村千右衛門から頼まれ、結婚するのに住居がなくて困窮していた同人の甥の富田善一郎に、同情して本件家屋の一部を他に住居を探すまでとの約で一時、権利金はもちろん実質上の賃料すら受取ることなく使用させたが、控訴人から注意をされ、富田善一郎に退去を求めたところ、同人はたやすく転居先が発見できなかつたのと、同人の妻が出産した関係で、多少転居の日時が延引したが、結局において同人が本件家屋の階下の一部に居住していたのは約十カ月にすぎなかつたことと、当裁判所に顕著なその当時はよういに住居を探し得ない社会状態にあつたことを合せ考えれば、被控訴人の本件家屋の一部を富田善一郎に使用せしめた行為は、無断であるとはいえ、控訴人に対する信頼関係を破壊する背信行為であるとはまだ認めることができない。従つて控訴人のなした上記契約解除の意思表示はその効力を発生するに由なかつたものといわなければならない。

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